こんなはずじゃなかった

彼とはもうほとんど連絡をとっておらず、まるで他人のようになってしまった。わたしから色々と話を振ってみても、短いときは二文字、長くても十文字以内の、当たり障りのない返事だけが返ってきて、もう話したくないのかなと思ったので、臆病者のわたしはそれから怖くてなんにも言えなくなってしまった。それでもお互い今のこの関係をどうにかしようとかそういう話は一切しようとせず、恋人だけれどもう三週間以上も連絡をとっていないという何とも言えない空気が流れている。きっと彼はまだわたしが地元に戻ったことに対して納得していないし良く思っていないのだろう。引越しをする前に会った日の別れ際、電話するねと言ったけれど、今の空気では一体なにを話せばいいのか全く分からず結局まだ一度も電話していない。彼のインスタグラムのほとんどはわたしと撮った写真で埋め尽くされていたのだけど、この前見たらそれらが全部消えていた。これはどういう意味だろう。考えたら分かることなのかもしれないけれど、考えたくなかった。

先日アルバイトの面接を受けてきた。実際に行ってみて、やっぱりとても行きづらい場所だと思った。小さなオフィスのドアをノックし、きれいなお姉さんが案内してくれた席で待っていると、そこにあらわれたのは私が想像していたのと180度ちがった雰囲気の男性だった。勝手な思い込みだけれどITとかWeb系の社長さんは、今風だけれどぴしっとしていて清潔感のあるイメージだったので、プロレスラーのような風貌の人が出てきたときは思わず口が開きそうだった。ちらちら覗くiPhoneのケースはルイヴィトン、Webデザインにかかせないソフトの名前を間違えて覚えている(訂正する勇気はなかった)、終始高圧的な態度。第一印象なんてほんの一部に過ぎないし、それだけで人を判断するのはよくないと分かってはいるけれど、全体的な印象から、わたしはすこし引いてしまった。事前に履歴書を送ったけれど、面接のときにはじめて履歴書を見たような反応だったのもびっくりした。例えアルバイトであっても、この人と一緒に仕事をしたいとは思わなかった。向こうも同じことを思っているかもしれない。どの分際でそんなことを言うのかと思われるだろうけど、こちらも会社を選ぶ側なのだということをわたしは念頭に置いている。おまけにもう一人の社員さんは面接に20分遅れてきた。どんな事情があったのかはわからないけれど、今まで色々な会社を受けてきてこんなことは有り得なかった。仕事を選んでいる余裕などないのに、わたしはすっかり意志が薄れてしまっていて、最後の方には顔が死んでいた。ごめんなさい。選ばれる側なんだということはもちろん分かっている。就活では第一印象ですべてが決まる、なんて言葉をよく耳にしたけれど、それって企業側も同じなのではないか。面接でわたしと実際に会ってみて、向こうもこいつはないなと思ったからそんな風だったのかな。考えても分からないことを考えたってしょうがないわ。とにかくここは仮に受かったとしても辞退しようかなと考えている。誠に身勝手で申し訳ございません。

なんだか悲しくて、もやもやして、むしゃくしゃして、帰りの途中で百貨店に寄り道し、ワコールできれいな下着を買った。担当してくれた女性が気さくな人で、面白くてよく笑った。今までこんなに下着にお金をかけたことがなかったから、わくわくした。背中に流れてしまったかもしれないお肉をあるべき場所にちゃんと戻してあげるために今日からちゃんと頑張ろうって、また目標ができた。

やっぱり田舎なので、わたしが望んでいるような業界の企業は少ない。このまま上手く決まらなければ、また都会に出るという選択肢も出てくる。また悩みが増える。当たり前だけど、あれもこれもスッと上手くはいかない。何かを優先すれば何かを切り捨てることになる。切り捨てられるものが何もないわたしはそこに佇むことしかできなくて、ウロウロウロウロしている。もうフラフラしてていい年齢ではないよ。なぜひとつしか選ぶことが出来ないの。なぜ。東京や大阪に近い土地に生まれた人は家族も仕事も友達も恋人もみんな近くにあって羨ましいだなんて、自分以外のもののせいにして、今わたしが行き場を失っていることを他の何かに擦り付けようとしている。最悪だ。人生こんなはずじゃなかった。